招待講演


10月29日(木) 10:15-11:15 第1会場
<座長> 藤渕 航(京都大学iPS細胞研究所)

細胞分化・組織化過程のモデル化を可能とする
新しい高精細多能性幹細胞分化誘導法

京都大学 iPS細胞研究所・増殖分化機構研究部門
山下 潤

我々は1998年頃からES細胞及びiPS細胞といった多能性幹細胞を用いて心血管細胞の分化再生研究を行ってきた。ES細胞から系統的段階的に血 管細胞の分化と血管形成を再現できる独自の分化誘導系を開発し、これを用いて新たな心筋前駆細胞の同定や心筋細胞の分化誘導、動脈静脈リンパ管内皮細胞誘 導等を行ってきた。またマウスiPS細胞からの心血管細胞の分化誘導およびヒトiPS細胞の効率的心筋細胞分化誘導及び純化に成功している。最近、単一の 心筋前駆細胞から、細胞が分裂することなく拍動する心筋細胞へ分化させることに成功した。すなわち、心筋分化過程以外の生命現象はほぼ排除された、いわば ノイズゼロの状態で心筋が出現する過程を再現できている。
一方、細胞シート作製技術(東京女子医大)及びゼラチンハイドロゲル技術(京都大学再生医科学研究所)等の組織工学技術を導入し、10数枚以上のiPS細胞由来心臓細胞シートを簡便に積層化し、虚血に陥ることなく3次元的心臓組織を構築する新手法を開発した。
これらを組み合わせることにより、心筋細胞の出現から3次元的心臓組織構築過程をin vitroにおいて高精度で再現し、1分子イメージングやシングルセルRNA-seqなど最先端技術を取り入れながら、細胞の分化及び組織化過程の時空間 的モデル化を行うことが可能になると考えられる。


10月30日(金) 10:15-11:15 第1会場
<座長> 緒方 博之(京都大学化学研究所)

食料生産・環境分野における微生物ゲノミクスの可能性と課題

東北大学大学院生命科学研究科
南澤 究

人類の生存に食料の安定供給は必須であるが、環境負荷や気候変動など食料生産を困難にする要因の増加が懸念されている。これらの課題を解決する糸口 として、ブラックボックスであった微生物を軸にし、農耕地生態系を物質循環システムとして科学的に捉え直すことが重要である。肥料削減は持続的農業の一つ の目標である。窒素条件を変化させた水田に栽培したイネに生息している細菌群集構造やメタゲノムの解析を行った。その結果、低窒素区のイネ根でイネ共生遺 伝子に依存したメタン酸化窒素固定の能力が高いことが分かった。これは、メタンの豊富な水田環境でイネと微生物が本来持っている優れた能力と考えられた。 マメ科植物の根には根粒が発達するが、その根粒器官には寿命があり土壌生物の格好の餌となり、その過程で根圏からは温室効果ガスN2Oが発生する。アンモ ニア化・硝化・脱窒という土壌(微)生物による物質循環システムが動いた結果である。しかし、N2O還元酵素活性の高い根粒菌を接種するとダイズ根圏から のN2Oを削減可能であった。圃場で栽培されたダイズの根粒バクテロイドのメタゲノム・マッピング解析により、土着菌群と接種菌群を識別が可能で、診断技 術として根粒菌の圃場育種に利用可能であった。さらに、蓄積された根粒菌ゲノムデータからは、共生アイランド進化のダイナミックな姿も見え始めてきた。最 後に、食料生産や環境保全の分野における微生物ゲノム解析の可能性と情報科学的分野への期待について私見を述べたい。